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Chapter.02

「α-MORNING KYOTO」ディレクター

鳥井 孝彦さん

 

"想像力によっていくらでも変わる"

 

 

がディレクターを担当する番組「α-MORNING KYOTO」は毎週月曜から金曜の週5日間、FM京都(α-STATION)にて放送されています。番組はディレクター1名、AD(アシスタントディレクター)が2名、DJ が1名、オペレーターが1名という体制でオンエアしています。

 この番組「α-MORNING KYOTO」は週に5日間ありますから、曜日ごとにディレクターが5名います。当然のことながらディレクターが変われば番組の持つ色が変わります。それをコントロールするためにプロデューサーがいるのです。なぜディレクターが曜日ごとに5人もいるのかというと、1人で毎日これだけの量の番組フォーマットを全部埋めて作るというのは物理的な作業料として負担が大きすぎるからです。選曲も同じ人が毎日やっていると似たような曲ばかりになってしまうのです。だから曜日毎に担当するディレクターを変えて、ディレクターの個性と曜日感で番組に変化を持たせています。そして変わることがプラスに働くように配置するのがプロデューサーの仕事です。ちなみにADの2人は全曜日同じです。こまごました仕事などを把握し、曜日間のパイプの役割も担っています。ADは作業が多くて、選曲したり番組のフォーマットを考えるような仕事が少ない。ディレクターはその逆だと思ってもらえばいいと思います。僕らが作った番組フォーマットにのっとってDJが話を進め、ミキサーが曲をかける。それで1つの番組の1回の放送になるわけです。役割分担、みんなの仕事を集めて番組はできているんです。その集大成がオンエアです。

 ここに今日、朝の放送で使用したフォーマットとトークチャンスというものを書いた紙があります。4時間の放送でフォーマットはおよそ10枚にもなります。フォーマットには、番組が朝7時に始まり、オープニング、その時のBGMがこれ、1曲目がこれです、と書いてあります。そのあとこちらの紙に書かれてあるニュース②番と、このフォーマットに書かれた番号が、原稿など他の紙に書かれたものと合うように作ってあるのです。この②のところは共同通信のニュースが入り、7分くらいあります。そのあとウェザー、天気予報ですね。そしてここで一曲目へ行って、それから新聞を読むラフリングペーパー、これが3チャンスあります。フォーマット上の④⑤⑥のやつです。内容は当日の新聞でDJの佐藤弘樹さんと打ち合わせをしてどれを読むか決める。これはもうその日でないとわからない。事前にできるのは下準備だけで、朝ADがみんなより早く来て、新聞全紙のネタとかニュースをチェックしてふるい分けるんですよ。それを僕がきてどれを使うか決めて、ADがコピーする。一週間で30㎝位の厚さになりますよ。あとはインターネットからも面白いものはないかなといくつか拾ってきて、これらがスタジオの中でバァーっと並んでいるわけです。

 

ニュース

 

 どのニュースを取り上げるかを決めるためには、普段からニュースを見ていないと決められないですよね。少し語弊がある言い方かもしれませんが、新聞には論調というものがあるし、ネットは嘘が多いのが特徴かと。言い換えればネットには本音が書いてあり、新聞にはホントが書いてあるという認識でしょうか。僕らはネットに書いてあることはあまり鵜呑みにしないようにしています。ネットに書いてあるものを使う場合には必ず裏を取る必要があるので少し手間がかかります。

 新聞に載っている情報は基本的には間違っていないと思われるので、そのままピックアップします。少人数で作るラジオでは、朝のニュースで伝えるのには、新聞に載っている情報が低コストで、内容が確かな場合が多いのでリスクが少ないというのが、情報源として新聞を選んでいる理由です。

新聞からは社会というものが見えてきますよ。社会情勢とか世界で今何が起こっているのか、具体的な一つの事件から、うごめいている世界全体の流れまで。もちろん新聞に載っていることが全てではありませんが、一つの窓として社会を見ることができますよね。社会の窓ですよね(笑)。

紙面から、社会で今、何が起こっていて、どういう情報がリスナーに必要とされているのだろうかと読み解いて、必要とされる情報を届けることができる番組を他局と差別化しながら作るのです。ここに主観はいらないんです。客観性だけです。

 我々は取材する力はありませんが、仕事上ニュースが必要である、またはニュースに興味があるという方が、必要であるだろうというものを膨大な量の中からチョイスする。それが僕らの仕事、どうピックアップするかという事。リスナーがどんなニュースを必要としているのかを想像しながら選ぶのです。だから僕が個人の感情で「このニュースは絶対伝えないといけないな」と選ぶのではないのです。ニュースの価値はリスナーが決める。僕らが決めてしまっては駄目なんです。

 

トラフィック、ヘッドラインニュース、ウェザー

 

 交通情報はJATICと言って日本道路交通情報センターに回線が繋がれていて、その時間の交通情報が送られてくるんです。我々はあそこから情報を買っているんです。ものすごく大きなパネルがセンターにあって、それを見ながらJATICにいる女性のオペレーターが回線を通して伝えてくれる訳です。そのパネルを我々は直接見ることはできない。番組のDJに読ませようとすると、情報をいったん原稿にしてから伝えなくてはならないので、時間的に誤差が出てしまう。情報の正確性が下がってしまうので、こういった形で伝えるという事になっているんです。今、どうなっているかをリアルタイムで伝えることが大事ですから。

 天気は、民間のウェザーニュース社と契約しているので、何時と何時というふうに決まった時間の天気が送られてきます。天気はそんな急には変わらないですから、大体読む30分前位に送られてくるようにしています。こっちは原稿にする時間的余裕がありますから、それを佐藤弘樹さんが読んでいます。ニュースについては新聞のほかに、共同通信と契約していて、そこから入ってきます。新聞と通信社の両方から情報を取り入れているのは、新聞だと昨日の夜中、今日の明け方のニュースが最新のものですから、朝に何かあったという時に対応できないわけです。共同通信はリアルタイムで入ってきますから、その弱点を補完できるのです。

 

ディレクターごとの持ち味

 

 ディレクターによって選曲も変わってきます。僕は金曜日の担当なんだけれども、こういった作業を僕はだいたい火曜日くらいにします。前日に行うディレクターもいるし、バラバラですね。僕が火曜日にやるのは週末が忙しいからなのですが、もう一つ理由があって、ちょうど火曜日になると週末の天気予報が発表になるんです。雨が降るときには雨というテイストの選曲にしたいですし、夏でピーカンの時にあんまりしっとりした曲ばかりかけられない。特に朝ですから、その日の天気感というのは番組に反映させたいものなんです。もちろん外れることもあって、大きく外れたときには放送しながら選曲を変える時もある。かける曲を総とっかえしながら放送しているという日もありますよ。

 

DJ 佐藤弘樹さん

 

 佐藤弘樹さんはオンエア30分前の6時30分に来ます。それから約20分で前に述べた作業を彼はやります。ニュースというのは連続性がありますから、毎日来ている、ニュースに触れている。それを十数年続けているからできるんです。彼はニュースの解説はしますけど、意見は基本的には言いません。言うときは、「個人的ですけど」と必ず断わりを入れているはずです。しかしそこで、余分な事を言いすぎないと言うのが彼のすごいところ。ニュースを分かっているんです。ここまでは言っていい、ここからはダメですよという塀の上ギリギリのところを行くけれど決して内側には入らない。何が危ないのか分かっているからです。だから安心して任せることができるんです。ニュースに対する理解度やオンエアするときに情報をリリースするスキルと方法、言葉の選び方、そのちょうどいい感覚を分かってくれているのです。それが佐藤弘樹さんの一番すごいところ。声がいいとか、英語ができるというよりも。自分の立場を理解しているという事がすごい。

 

番組作りで大事なこと

 

 競合他局がたくさんあるわけですから。その中から我々がどう選択してもらえるか。いかに差別化が図れるか。朝の時間、競合する他局はほとんど邦楽を流している。だから「α-MORNING KYOTO」は洋楽しかかけません。そうすることによってリスナーに違った選択肢を提供できるわけです。世の中には邦楽が好きな人もいれば、洋楽が好きな人もいる。洋楽を好きな人が他局を聴いて、邦楽しかかかってない。困ったなと思っている時にウチの局が洋楽専門でやっていたら「俺は洋楽好きだから」という理由で選択していただける。他局とどう差別化していくかが大事なので、相手のことをよく知らないと。そして相手が邦楽中心で比較的若い人向けの番組を放送しているんだったら、こっちは佐藤弘樹さんが洋楽専門で大人向きの番組をやるということで、リスナーにとって選択の幅が広がりますよね。そしてうちの番組は洋楽が好きな人に選んでもらえる。競争するっていうのはそういう事です。

 「α-MORNING KYOTO」の場合には、社会人でニュースというものが自分の仕事に大きく影響したり、自分の生活と密接に関わっている人が聴いてくれるように番組作りを行っています。みんな目的はバラバラでいい。ニュースが必要で洋楽が聴きたいという人にとって最高の番組でありさえすれば、そういうものを必要としている人に選択してもらえる訳ですから。ニュースが必要で洋楽が好きだという人が選択の結果、自然とこの番組を選んで聴いてくれればいいと思って作っています。

 選択はリスナーがするのです。我々は選択肢を与えて選択してもらうという立場です。いい番組を提供する努力は怠れないけれど、聴いてもらうために無理して邦楽をかけることはしない。そのあたりですね、大事なのは。ニュースや洋楽のピックアップの仕方だとかが、想定しているリスナーが必要としているものを提供できるようにしています。

 

ラジオの醍醐味

 

 ラジオの面白いところは、音声のメディアだという事です。音声だから人間の想像力を刺激するんです。ラジオのDJが「あなたは」って言うと受け取る側のラジオの前にいる人は、自分のことだって感じるんです。1対1の関係が成立するわけです。ラジオを複数で聴くという事は考えにくいので、基本的には1対1の関係を想定して番組を作っています。しゃべり手であるDJもそういう関係を意識した話し方や言葉の選び方をするようにしています。だからラジオから「あなたはどうですか?」と訊かれると考えてしまうんじゃないですか? 好きなアーティストにそう呼びかけられればグッとくるでしょう? 近くに感じることができるメディアなんです。たとえば、誰かを驚かそうという趣旨の番組を作る時に、映像だったら特殊メイクをしたり、CGで加工したり、莫大な費用と人手がかかりますよね。ラジオなら音だけで作れますから、歩く音とドアをノックする効果音を用意して、あとはそれを聞いた人に想像させる。ドアを開けるべきか、開けない方がいいのか。開けたらどんな恐ろしいものが待っているのか。化け物が待っているとして、映像だとそのディティールまで作りこんで作り手側が見せつけなくちゃいけないけれど、ラジオだと化け物のディティールは聞いた人の想像力に任せるんです。その分、どう想像をさせるか、どう伝えれば聴いた人がどういう想像を抱くのか、こっちも想像力を働かせて作るんです。これが何とも面白い。想像の世界は無限ですから、いくらでも膨らますことができます。言葉のニュアンスというものは非常にデリケートで、うまく伝わらなかったり、語弊を招いてしまったりすることもありますが、僕らはそれをいい方向へ働くように使って、聴き手の想像力を刺激する。リスナーに必要とされる番組を作っていくんです。作り手も聴き手も想像力が必要なのがラジオなんです。

 

働くとは

 

 「好き」と「嫌い」という主観の軸以外にもうひとつ、「いい」と「悪い」という客観の軸を持つこと。その二つの軸を交差させて、そのバランスで悩まないといけない。「いい」と「好き」が一致した状態が最高ですよね。だけど世の中「いい」というものと「嫌い」というものが一致することも多いんですよ。なかなかうまくはいかない。それが仕事というものです。例えば、肉体労働を「好き」という人はあまりいないと思います。だけど肉体労働のギャラはすごく「いい」。だから差し迫った収入が必要な人とって肉体労働は高い報酬の得られる「いい」仕事ですよね。でもハードな職場で「嫌い」だという人が多いんじゃないでしょうか。基本的に「好き」なことをやるとお金は儲からない。アーティストなんかだと「いい」と「好き」というのが一致しています。でもそういう人は滅多にいない。ごく稀なケースです。たいてい、収入は「いい」けど「嫌い」な仕事をするか、「好き」な仕事をしているけれども収入は「悪い」か、どっちかだと思います。如何にしてそれを変えていくのか。収入のいい安定した生活のまま仕事を「好き」になる工夫。「好き」な仕事をしながら「いい」収入を得る工夫。工夫して最高の状態で暮らせるようにしていく。社会には工夫の余地がたくさんありますよ。

 与えられた仕事を面白がれるかどうか。そこには何の投資もいらないし、考え方一つ、捉え方一つで変えられる。そうすれば「好き」と「いい」が一致する最高の楽しい状態で働けます。「嫌い」な仕事の中にどれだけ「好き」を見つけられるか、面白がれるかどうかで自分の持っている世界、価値観っていうのはひっくり返せるものなんです。そして、それができるのは自分だけ。それができれば、「好き」な仕事をしながら「いい」収入を得て暮らしていくというのも、あながち難しいことじゃない気がしてきませんか。要するに、嫌な仕事でもなんでも、とにかく働けという事です。(笑)

 

番組改編の時期

 

 番組改編の時期がやってくると僕らのような局から仕事を任せていただいている制作会社の人間はやっぱりピリピリしていますよ。仕事がなくなるというのは死活問題ですし、僕らには決裁権はありませんから。局が決めたものを受け取るしかないわけです。路頭に迷うことだってあり得ます。放送局が一度いらないといった人をもう一度という事はまずあり得ません。それだったら新しい人を探すと思います。悪いことして「あいつ使うな」って言うのを、仕事を干されるといいますが、僕らは何も悪いことしていなくても、それに似たような状態に陥ってしまう事もある。それは局の予算の都合であったり、向こう側のことが原因であることもあるから、どうしようもありません。製作費と人件費をカットするために、この番組は打ち切らせてもらいますと言われることもある。大学生でいうと、「すいません。レポートの提出、締切に1分遅れました」「ああそうか。じゃあ君、退学。」というくらいの厳しさかな。「もうこなくていいよ」と。それでおしまいです。理由なんて聞いてくれませんよ。そうなりたくないと思うんだったら、締め切りに間に合わないわけにはいかないし、さらに間に合った中でも抜きんでなくてはいけない。厳しい世界ですよ。やっぱり。まあ、プロ野球の選手と同じだと思えばがんばれますけどね。結果出さないと終わりという。それでも続けているのは、何よりこの仕事、楽しいですから。大変だけれども楽しいこともいっぱいある。だから続けているんです。かなりリスクの高いアドベンチャーを人生でしていますけど。でもどんな仕事をしてもリスクはありますから、だったら自分の好きな仕事をして収入を増やす努力をしようというわけです。どうせ大変ならね、好きなことをやって四苦八苦やっていく方がいいじゃないですか。

 

覚悟

 

 番組を作るには想像力がいるんです。そして仕事をするうえでは覚悟が必要です。与えられた仕事を一生懸命やること。ベストを尽くしそれを示す。それができれば、たとえ制作した番組が支持されなくても、そうか仕方がないなと思える。やるだけやったらあとは潔く、結果に責任を持つ。一歩退却する勇気といいますか、負けを認めるから見えてくることもあるし、活路も生まれる。アイデアを提案して受け入れられると嬉しいけれど、そうじゃない時もある。その時に受け入れて退却する。「申し訳ございません」と言う覚悟。「全力を尽くしたんだ」「俺は悪くない」と言うんじゃなくて、スポンサー様のご意向に沿えなくて「申し訳ございませんでした」と僕が言う事によってこの場が丸く収まるというのであれば謝るという、覚悟を持って仕事をするというのがプロフェッショナルな訳です。

プロフィール

鳥井 孝彦

とりい たかひこ

1957年兵庫県生まれ。1991年α-Stationの開局に参加、制作の仕事を始める。

有限会社ユニオンシナプス 代表取締役社長。

α-Station、KBS京都、FM石川、FM大阪、kiss FM-KOUBE、FM KOKORO、FM滋賀、FM福井、ZIP-FM、NHK京都FMなどで番組を手がける。

*本文中の日時・役職・その他各名称等はすべて取材時のものです。

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